さいごの散歩道
この手で母を介護し、この手で母を殺めた。
キリッと澄みわたる寒空の下、ある冬の日のことだった。
駆ける列車、揺れる車内。
窓を流れる風景を、無邪気に楽しむ母。
母が腰かける車いすを、背後で支えるハル。
ハルは、すでに限界を感じていた。
精神的に、肉体的に。
そして、経済的にも。
だが、これ以上、誰にも迷惑は掛けられない。
終点の駅名がアナウンスされた。
幾重にも連なる人の壁をかすめるように、車両がホームへと滑り込んでいく。
扉が開き、ハルはホームへ車いすを押し出し、エレベーターで改札階へ降りる。
ふたりにとって、さいごの散歩道の始まりだった。
◇この絵本は、2006年に京都で実際に起きた事件をモチーフにした物語です。
現実の事件をもとに、家庭内介護や生活保護行政のあり方など、現代の日本社会が抱える歪みが、最悪の形で噴出したものといえます。
なぜこのような悲しい事件が起こってしまったのか、どうすれば同じような事件が起きることを防げるのか、そういった課題や解決策を考えるきっかけになる「大人の絵本」です。
◉高学年以上で習う漢字にはルビあり
◉「どうすれば事件が起きずに済んだのか」
弁護士、臨床心理士、介護離職防止コンサルタントによる解説つき